組織運営チップス100[石井友二]

会計監査やコンサルティング、会計事務所の運営により、過去多くの企業経営を学び、また関与してきました。我々が開発したツールやフレームワークをご紹介していきます。起業を志す方や経営者の方々の多少の参考になれば嬉しく思います。

仕事に取り組む姿勢 KUAPとは

仕事をするときに大切な着眼があります。

 

組織のなかで、ある仕事を知って(know)やるのか、理解して(understand)やるのか、または受容して(accept)行うのか、さらに工夫を以てその仕事を自分なりに進歩、進化させていく(progress)のかどの姿勢を取るのかがとても大事だ、ということです。

 

我々は仕事に取り組む姿勢の段階を、それぞれの頭文字をとり、KUAP(クアップ)と呼んでいます。

 

例えば「〇〇さん、明日会議に使うから今期の売上月次推移表を昨年対比で作っておいてね」といわれ、「分かりました」と応えたAさんは、売上の今期と前期の月次推移を表にして、棒グラフで作成しました。

 

Bさんは、「分かりました」「ところでこの表は何のために作成するんですか」と質問し、上司から「営業所の予算は達成できているけど、さらに売上を伸ばすためにどうしたらいいのか戦略を立てる」と説明を受けました。Bさんはそうであるなら売上の8割を占める上位20社の顧客別取扱い商品別に出す必要があると考え、その今期と前期の月次推移のグラフも追加して作成もしました。

 

またCさんは、「分かりました。やります」と返事をしたあと、「そうだな、でもいくら売上を出しても会社が求めているのは利益なので、上位20社の顧客別取扱い商品別に売上を出すだけではなく粗利表から顧客別データをつくり追加しておこう」と考え時間をかけて調べて資料を作成しました。

 

そしてDさんは、「分かりました。頑張ります」といったあと、「利益を上げるためにはどうしたらいいんだろう?」と考え、今期と前期の月次推移表、上位20社の顧客別取扱い商品別推移、さらに顧客別粗利表を作成するとともに、「現場の情報を収集して考えてみよう」と思い立ち、先輩から話を聞いたり、各営業担当者の顧客管理データを閲覧して営業担当者と取引先のやり取りや課題を整理して、『当社としてどのような取組みをしなければばらないのか』についての仮説を立て、コメントを付して資料を作成しました。

 

ここで、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんはそれぞれどのような姿勢で仕事をしたのでしょうか。

 

実務では上司が事細かに指示し、あれとこれを作ってね、ということが通常であり、このようなシンプルな事例はあまりないとは思いますが、Aさんは上司からの売上推移表を作っておいてねという指示だけを知って資料を作成したし、Bさんは質問をして、資料の目的を理解して作成をしています。

しかし、両者はまだ言われたことをやる、という姿勢の領域から抜け出ていません。

 

これに対しCさんはこれは自分の仕事だという思いをもち、もう一歩踏み込んでパレート法則に則り少なくとも上位の20社で8割の売上を管理すればよいと考え、さらに仕事の本質からいくら売上があっても利益がなければと思い、さすがに顧客別の営業利益を出せる時間はないものの、粗利の資料も添付しておこうと思いつき資料をつくったのでした。

 

Dさんはどうかというと、売上や利益情報だけではなく、さらに先を考え、『どうすれば売上を伸ばし、利益を出せるのか』についての自分なりのコメントも付して資料を作成しています。

 

  1. 直接指示されたことだけで動くスタッフ、
  2. 質問をして理解しながら仕事をするスタッフ、さらに
  3. この仕事は自分の仕事だと受容れ考えながら資料を作成するスタッフ、
  4. さらに、そのうえの成果を得たいと工夫し他の情報を得て意見を言えるスタッフ

の違いがここにあります。

 

ここで上司は実はDさんの仕事は求めていないかもしれません。上司は既に多くの課題を整理し、会議でプレゼンすることを前提として説明資料の一部を部下に指示したのかもしれないからです。

 

指示した仕事以外するな、という状況もあるかもしれないし、逆にAさんの資料だけでは上司が会議で本社から来た責任者に突っ込まれて困った事態になっていたかもしれません。

 

しかし、仕事をするときの姿勢として、

  • この仕事はどのような意味をもっているのだろう
  • どんな目的のために行うのか
  • どのようなことをしなければならないのか
  • どうすれば漏れなくダブりなく行えるのか、

といったことに思いを巡らせ、上司と話しをしたうえで仕事をする部下がいれば組織に大きく貢献するのは間違いありません。もちろんそうした個人は頭抜けて成長するのは誰が見ても明らかです。

 

スタッフは、自分の仕事がKUAPのどこにあるのかを常に考え、いつもPのレベルで対応するのは無理としても、仕事の種類や内容により、少なくともUやAの姿勢で仕事に取組み、時に応じてPの対応を行うことが必要ではないでしょうか。

 

組織はどのようにしたら適切な行動がとれるスタッフをつくれるのか、組織一体化のためのガバナンスや1on1、評価、教育等について一度振り返りをしてみることが期待されます。

                                   (HRM