組織運営チップス100[石井友二]

会計監査やコンサルティング、会計事務所の運営により、過去多くの企業経営を学び、また関与してきました。我々が開発したツールやフレームワークをご紹介していきます。起業を志す方や経営者の方々の多少の参考になれば嬉しく思います。

目標管理における1on1の具体的アプローチ


厳しい環境を迎えトップマネジメントが明確なパーパスと強いビジョンを打ち出し、何がなんでもそれを実行していく組織運営が求められています。確信をもって積極的に行動するトップマネジメントに多くの社員はついていきます。

 

リーダーとは部下から受容されてはじめてリーダーになることができます。上司だから、権限があるからといってリーダーであると思う人が多い組織は衰退します。部下の面従腹背のなかから新たな価値は生まれません。

 

上に立つ者は自分がリーダーに適しているのか適していないのか。適していないと擦れば何を変えていけば真のリーダーになれるのかについて 心底から反芻してみる必要がありそうです。

 

組織を変革するためには目標管理を行うことが有効です。目標管理制度におけるリーダーとしての上司の役割、部下の姿勢について検討します。

 

ある組織で行ったレクチャーで利用した資料です。

 

目標管理制度が個人レベルに落とし込まれて運用されています。個人目標のチェックも〇月までに完了するとの営業部長からのご説明がありました。そのなかで営業部長からは、個人面接をする課長が「部下に対し、どのように面接をすればよいのかが理解できていない」、「部下もどのように面接を捉えていけばよいのかについて認識できていない」との指摘がありました。

 

以下、1on1における上司の対応や部下の在り方について説明をします。

 

1on1(個人面談)=個人目標が達成されているかどうかをチェックするための個人面接は、個人面接そのものの技術について良し悪しを検討するのではなく、目標管理におけるプロセスとして捉えていく必要があります。

 

個人面接の技術といった表層的な議論ではなく、目標管理を上司がどのように捉えるのか、また部下がどのように対応するのかといった議論が行われなければなりません。上司と部下にそうした思考があり、その経過として1on1があるという捉え方をしなければなりません。

 

目標管理制度は、目標を達成するためのマネジメント手法であるとともに、部下を育成する行為そのものでもあります。部下を一定の方向に振り向け、指導し、そして成果をあげるというプロセス自体が、部下育成のプロセスそのものであるからです。

  1. 上司は部下をどのように育成するのか
  2. 部下は上司からどのように育成されたいのか

について熟考し、それぞれの立場から目標管理を捉えていかなければなりません。

 

上司は部下をどのように育成するのか、についてです。上司が部下を育成するための一つの道具として目標管理を使うという視点を持つ必要があります。そもそも、目標設定時点で、個人の属性を確認したりや課題を想起することが規定されていました。

 

すなわち、目標により何を達成するのかについてよく吟味し、また個人をよく見極めたうえで、個人の育成に貢献する、あるいは個人が力を発揮できる目標を設定するなど、目標管理制度は目標達成と個人の育成を同時に達成しようというながれをもっていたことを思い出さなければなりません。

そうであれば上司は目標管理がスタートしたのち、個人別に以下について確認し行動することが適当です。

 

  • 個人は、設定された目標達成に取り組んでいるか

一つ一つの個人目標に網羅的に取り組んでいるのかを、あらゆる方法により評価し、取り組みの程度を確認しておかなければなりません。

 

  • 取り組みは適切に行われているか

目標への取り組みは決められた通り、またはその都度考慮された方法により行われているかどうかをチェックします。具体的には、日々の業務を観察したり、本人に確認して個人の行動をチェックすることになります。

 

  • 支援が適切であるのか

本人の意欲を喚起することで解決することが可能であるのかどうかを確認する必要があります。

 

本人の意欲(取り組みの姿勢)が欠如しているときには、意欲が欠如している理由の明確化、解決策の検討、解決策の実施を行わなければなりません。本人の意欲はあるが、方法論で壁にぶつかっているときには、支援が行われる必要があります。

 

  • どのような支援が必要か

支援が必要なことが明らかになったのち、どのような支援が必要であるのかを考えます。

 ⅰ)当初決めていた同じ目標を設定した他の同僚との連携

 ⅱ)別途当該目標達成に対して技術をもっている先輩への支援依頼

 ⅲ)上司(自分)による何らかの具体的な行動レベルの支援実施

  a)適時のアドバイスを心がける

  b)代替的手法の提示

 aとbを繰り返しながら対応します。

 

  • 当初想定した、個人育成の観点で成果があがっているか

職務基準と擦り合わせ若しくは上司の思いからこのような能力を身に付けてほしい、こうした成果を上げて欲しいという思いで目標を設定しているとき、その通りの結果となっているのかどうかについて確認する必要があります。個人が育成されているのかどうかを確認するためには、当初想定した能力や成果があがっているのかを総合的に評価することになります。例を示すと、

  1. この資料作成という目標を通じて、○○の知識や技術を身に付けてほしい
  2. このとりまとめを通じて、他部署との調整を図ることで、コミュニケーション能力を高めて欲しい
  3. この作業を通じて、人を束ねることができるよう指導力を身につけてほしい

といったことがそれですが、これらを達成するためには、個人が生き方を変えたり、仕事に対する取り組み姿勢そのものを変えたり、日常的に勉強したり、他人のことを思いやれるようになったり、といったさまざまな変化が起こってくることが想定されます。

 

なお、部下がまったく成長せずとも成果が挙がってしまうということがあります。その場合には、元に戻り追加的に別の課題を設定して、当初の考え方を徹底していくことが必要です。すなわち上司がこれをして欲しい、これを変えてほしいという部分について成果があがるよう最後まで部下を育成し続けるということがポイントになります。

 

勿論、目標管理制度だけで組織が動いているのではないため、目標管理において設定した教育の到達点は、目標管理だけによって達成するのではないことは明らかです。あらゆる機会を通じて本人の育成を行うという姿勢や方針を常に持ち続け、併せて教育し続けていくことが期待されます。

 

「この人にはこうあって欲しい」と営業部長が話されていましたが、まさにこうなってもらいたいということも含め、部下への意識を振り向けていかなければなりません。

  

日常から、こうしたことに対し強い思いをもっているのかどうかについて自己確認をしてみる必要があり、面接はそのプロセスを確認するためにも行われるということが理解されなければなりません。

 

そのように考えれば面接はそれほど困難なものではなく、逆に面接というよりも、日常のなかで、上記について上司がその実効性を確認し、常に指示を出したり、指導をしたりしなければならないと考えることが相当です。

 

部下は上司からどのように育成されたいのか(どのように成長していきたいのか)部下自身の能動的な姿勢がなければ、上司のいかなる対応も成果をあげることができません。上司が上記により能動的な姿勢をもてるよう働きかけるとともに、部下がそうなるよう別途意識づけをしていく必要があります。

 

上司が部下を育てたい、育ってほしいという思いをもち、具体的に行動していくことが前提にはなりますが、別途集合教育においても、能動的な意識を喚起するための仕掛けが必要です。

 

部下は、一般的に以下の思いをもち行動していると考えられます。

  1. どのようなプロフェッションになりたいのかについての思い
  2. どんな仕事がしたいのか、どんな仕事がしたくないのかということについての明確又は漠然とした希望
  3. 何が(誰が)好きで何が(誰が)嫌いであるのかの明確又は漠然とした気持ち

これらの気持ちを引き上げ、あるいは確認し、あるべき方向に誘導することが上司の役割であり機能です。

 

どのようなプロフェッションになりたいのかについての思いについていえば、各職場において上司が、プロフェッションとしてのモデルを示していく必要があります。そのためには、上司自らが果たすべき職務を果たさなければなりません。目標管理についていえば、

  • 組織の現状、組織は何を目指しているのか、
  • どのようなことができていないのか、
  • プロフェッションとしていま何をしなければならないのか、
  • それは個人にとってどのようなものであるのか、
  • それを行うことにより個人はどのように成長できるのか

といったことについて日常から部下に語りかけていなければなりません。

 

そうした上司の行動により部下は、職業感を身に着け、上司をモデルとして認識し、自分と実在する上司を重ね合わせながら不足するところを確認できるようになります。上司が魅力的であればあるほど、自分のモデルは輪郭を明らかにして、「この人のようになりたい」という明確な到達点をもつことができるようになるのです。

 

どんな仕事がしたいのか、どんな仕事がしたくないのかということについての明確又は漠然とした希望についていえば、上記ができあがっていくことがなくても、プロフェッションとして成果をあげていくためには何をすればよいのかを理解してもらう努力をすることが必要です。

 

自分が持っている明確又は漠然とした希望は、それが正しいかどうかの検証をしていなければ意味がないことになります。否定するのではなく、何をしたいのか、どのようなことについて興味をもっているのかについて常に聴取するともに、これがあなたには向いているし、あっている。これをすることにより、よりあなたのやりたい仕事に近づける、近づくことができるという話をすることで、いまやらなければならないことの意味を意識してもらうことが必要です。

 

その場合には、押しつけではなく、個人がやりたいことが、何をすればどのように達成されていくのか、そのためには何をしていけばステップが踏めるのか、といったことについて上司は判断していく必要があります。

 

また、したくないという仕事があるとしても、それはそうではなくて、意味がある、あるいはしたい仕事とこのようにリンクしていて、それができなければ、したい仕事もできないといった説明をして納得してもらうことや、したくない仕事について十分に議論し、したくない仕事からしたい仕事に転換していけるよう支援していくことも必要です。

 

本人の希望を聴取するとともに、組織や部署の目標、そして個人の目標がそれらとどのようにつながっているのか、また個人目標を達成することが、それらにどのように近づいていけるのかを納得してもらえるようサポートしていくことが期待されます。

 

なお、多くの社員に散見される事象ですが、好き嫌いで仕事が上手く進まないことがあります。

 

何が(誰が)き好で何が(誰が)嫌いであるのかの明確又は漠然とした気持ちについては、目標管理を通じて、個人の思いではなく、仕事として組織的に動くことが個人の目標を達成するために最も重要であることを伝えていく必要があります。好きな仕事や好きな人は別として、ネガティブな気持ちになりやすい、嫌いな仕事や嫌いな人との接点をどのようにつくり、それをそうではない方向に振り向けていくことも上司の役割です。

 

チャンスを提供し、実はそうした思いは誤解であったという意識をもってもらうことや、仮にそれが解決できないとしても、社会人として感情に左右された仕事をしてはいけない、すべて事実としてとらえたとしても、例え嫌いな仕事であっても、成果をあげるまで行わなければならないし、嫌いな人であっても組織として動き、成果をあげていかなければならないことを説明していくことも必要であると考えます。もちろん最終的には嫌いな理由や原因を突き詰め、その思いを修正することが大事ですね。

 

仕事を通じて、こんなプロフェッションになりたいという思いをもてるよう日頃から誘導していくことと、本人がそうした思いをもてるよう1on1を活用します。

 

1on1の巧拙は、上司の面談スキルではなく、組織の勢いや上司の仕事に対する取組み姿勢、そしてリーダーシップにあることは明らかです。別途トップマネジメントのマネジメントのあり方の見直しや、集合教育等により優れた上司の育成を行っていく必要もありそうですね。(HRM)