組織運営チップス100[石井友二]

会計監査やコンサルティング、会計事務所の運営により、過去多くの企業経営を学び、また関与してきました。我々が開発したツールやフレームワークをご紹介していきます。起業を志す方や経営者の方々の多少の参考になれば嬉しく思います。

信頼できる上司との1on1

小さくても大きくても組織においては、1on1(上司と部下が1対1で対話すること)が不可欠です。

 

組織が小さければトップが直接本人に話ができるため、一人ひとりのミッションは明らかで、何をすればよいのかが本人も良く理解できています。例えトップが多忙で、よく話ができなくても部下達は彼の背中を見ているので、良くも悪くも日々の動きから思いや、またトップが仕事に真剣に取り組んでいれば情熱がダイレクトに伝わります。

 

本人も自分の行動と組織の動きを比較的容易に擦り合わせることができる環境にいると考えます。意識しないとするとに関わらず1on1に近い活動が行われています。

 

しかし、組織が大きくなるにつれてトップマネジメントと社員との間に距離ができ、トップマネジメントの考えていることや、仕事ぶりが見えなくなってきます。一般社員、監督職、管理職の階層ができて益々本人とトップの間は離れていきます。組織マネジメントの必要性がより必要になる状態になります。

 

随分前に、上場を間近に控えたある著名なベンチャーの社長が「自分は300人までの部下は管理できる」と話してくれたことがありますが、そうはいっても一人ひとりの状況を把握し、一人ひとりに向き合うことは難しいだろうなと思った記憶があります。一人ひとりの社員が自分の力を120%発揮できるようにするために、組織としてどのような取組みをすればよいのかは明確です。

 

上司は、トップマネジメントが設定した組織の方針や目標を受容し、その達成を決意したうえで、自部署の方針や目標を設定し、それらを理解できるように部下に1on1にて説明し、共有します。

 

組織が何を目指し、何を期待しているのかをしっかりと伝え、個々の特性や本人のやりたいこととをベースに判断し、コミットメント(公約)を得て部下の目標設定や日々の行動を組み立てて、実行支援を行うことが必要です。

 

次に部下が行動しやすいよう環境づくりを行います。部下の失敗を自分の責任と捉えフォローを怠らず、部下の成功を自分のことのように喜べる風土をつくりあげることに始まり、日常においては部下の時間を大切にし、計画的な行動への指示を出すことが大切です。

 

コミュニケーションをとるときは、部下の意見に対し肯定的に耳を傾け適切なアドバイスを行い、また事に当たっては感情を出して叱責せず、冷静に話し合えることや、彼らの意見を尊重し、ときには全面的に採用する度量をもっていることも部下から信頼される要因となります。

 

そのうえで部下が自信をもって行動できるように具体的に指導し、また適切なアドバイスを行い、部下の成長課題を発見しその達成に対しても的確なアドバイスを行うことが求められます。さらに仕事の成果を求めつつも、そのプロセスも評価するとともに裏方で成果をあげている者を評価するなど部下の取扱いを分け隔てなく、公平公正な評価を行うことも忘れてはなりません。

 

評価の結果を受け、仕事の多くを部下の育成に使い、不足する知識や経験の到達点を設定しつつ、仕事のなかで研鑽の機会を計画的に提供することも重要です。なお、教育の機会の提供は公平にすべての部下に平等に与えられていることも部下のやる気を引き出します。

 

これらは、上司が部下から尊敬され、信頼されて始めて部下は覚醒し組織はその目的を達成することができます。

 

上司の指示を理解しても仕事ができない部下や、分かったふりをして理解できず何もしない部下、面従腹背する部下や、はなから上司に従わない部下など心配の種は尽きませんが、そうなっている原因は上司にあるかもしれないと考える必要があります。

 

一連の対応のなかで部下の話をよく聞き、一方的な押し付けをせず、納得できるように指示を行うことや、外部取引先に対しても誠意をもって対応することで社会人としての範を示します。

 

なお、上司が中間管理職で自分の上位の役職者がいるときには、その上司に対して正しい報告を行うことを心掛けなければなりません。そのことで部下は報告のあり方を敏感に感じ取り、自らの行動を修正します。留意すべきポイントです。

 

次に仕事の態度です。生活態度が安定していて傍から見ていて安心できることや、上司としての責任感や情熱、使命感をもって仕事に真剣に取り組み自ら解決すべき課題を持ち、日々自己変革を行い、前向きに行動し成長している姿を部下に見せることが上司に求められる態度です。

 

ただ、真の尊敬を得るためには、部下の自主性を重んじたマネジメントを行いながらも、規律について守るべき線は譲らないという厳しい姿勢が必要です。厳格なコンプライアンスを求め、部下に間違いがあれば、それを瞬時に指摘するし、一定程度の信賞必罰も行います。もちろん外部との取引においても不正はないかどうかのチェックは怠りません。

 

そして、究極の信頼できる上司像の根底には人間力があります。横柄ではなく常に適切な態度で接しているか、言葉遣いは乱雑ではなく丁寧、誰に対しても誠意をもって接しているか、そして人として、仕事のプロとして尊敬される自分であるか胸に手を当て考えてみる必要があります。

 

こうして考えると上司にはかなりの「優れた人材」としての期待がかかります。これだけ完璧な上司であることは現実的ではないという意見もあるでしょう。なのでここに提示された状況を理想(到達点)として、現状とのギャップを把握し、解離を埋めるために何をしなければならないのかを考える必要があります。

 

ガバナンスの見直しやリーダー育成、1on1の具体的な方法や環境整備をどのように行うのかについて検討し着実に成果を挙げることが求められています。

 

                              (リーダーシップ)

仕事に取り組む姿勢 KUAPとは

仕事をするときに大切な着眼があります。

 

組織のなかで、ある仕事を知って(know)やるのか、理解して(understand)やるのか、または受容して(accept)行うのか、さらに工夫を以てその仕事を自分なりに進歩、進化させていく(progress)のかどの姿勢を取るのかがとても大事だ、ということです。

 

我々は仕事に取り組む姿勢の段階を、それぞれの頭文字をとり、KUAP(クアップ)と呼んでいます。

 

例えば「〇〇さん、明日会議に使うから今期の売上月次推移表を昨年対比で作っておいてね」といわれ、「分かりました」と応えたAさんは、売上の今期と前期の月次推移を表にして、棒グラフで作成しました。

 

Bさんは、「分かりました」「ところでこの表は何のために作成するんですか」と質問し、上司から「営業所の予算は達成できているけど、さらに売上を伸ばすためにどうしたらいいのか戦略を立てる」と説明を受けました。Bさんはそうであるなら売上の8割を占める上位20社の顧客別取扱い商品別に出す必要があると考え、その今期と前期の月次推移のグラフも追加して作成もしました。

 

またCさんは、「分かりました。やります」と返事をしたあと、「そうだな、でもいくら売上を出しても会社が求めているのは利益なので、上位20社の顧客別取扱い商品別に売上を出すだけではなく粗利表から顧客別データをつくり追加しておこう」と考え時間をかけて調べて資料を作成しました。

 

そしてDさんは、「分かりました。頑張ります」といったあと、「利益を上げるためにはどうしたらいいんだろう?」と考え、今期と前期の月次推移表、上位20社の顧客別取扱い商品別推移、さらに顧客別粗利表を作成するとともに、「現場の情報を収集して考えてみよう」と思い立ち、先輩から話を聞いたり、各営業担当者の顧客管理データを閲覧して営業担当者と取引先のやり取りや課題を整理して、『当社としてどのような取組みをしなければばらないのか』についての仮説を立て、コメントを付して資料を作成しました。

 

ここで、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんはそれぞれどのような姿勢で仕事をしたのでしょうか。

 

実務では上司が事細かに指示し、あれとこれを作ってね、ということが通常であり、このようなシンプルな事例はあまりないとは思いますが、Aさんは上司からの売上推移表を作っておいてねという指示だけを知って資料を作成したし、Bさんは質問をして、資料の目的を理解して作成をしています。

しかし、両者はまだ言われたことをやる、という姿勢の領域から抜け出ていません。

 

これに対しCさんはこれは自分の仕事だという思いをもち、もう一歩踏み込んでパレート法則に則り少なくとも上位の20社で8割の売上を管理すればよいと考え、さらに仕事の本質からいくら売上があっても利益がなければと思い、さすがに顧客別の営業利益を出せる時間はないものの、粗利の資料も添付しておこうと思いつき資料をつくったのでした。

 

Dさんはどうかというと、売上や利益情報だけではなく、さらに先を考え、『どうすれば売上を伸ばし、利益を出せるのか』についての自分なりのコメントも付して資料を作成しています。

 

  1. 直接指示されたことだけで動くスタッフ、
  2. 質問をして理解しながら仕事をするスタッフ、さらに
  3. この仕事は自分の仕事だと受容れ考えながら資料を作成するスタッフ、
  4. さらに、そのうえの成果を得たいと工夫し他の情報を得て意見を言えるスタッフ

の違いがここにあります。

 

ここで上司は実はDさんの仕事は求めていないかもしれません。上司は既に多くの課題を整理し、会議でプレゼンすることを前提として説明資料の一部を部下に指示したのかもしれないからです。

 

指示した仕事以外するな、という状況もあるかもしれないし、逆にAさんの資料だけでは上司が会議で本社から来た責任者に突っ込まれて困った事態になっていたかもしれません。

 

しかし、仕事をするときの姿勢として、

  • この仕事はどのような意味をもっているのだろう
  • どんな目的のために行うのか
  • どのようなことをしなければならないのか
  • どうすれば漏れなくダブりなく行えるのか、

といったことに思いを巡らせ、上司と話しをしたうえで仕事をする部下がいれば組織に大きく貢献するのは間違いありません。もちろんそうした個人は頭抜けて成長するのは誰が見ても明らかです。

 

スタッフは、自分の仕事がKUAPのどこにあるのかを常に考え、いつもPのレベルで対応するのは無理としても、仕事の種類や内容により、少なくともUやAの姿勢で仕事に取組み、時に応じてPの対応を行うことが必要ではないでしょうか。

 

組織はどのようにしたら適切な行動がとれるスタッフをつくれるのか、組織一体化のためのガバナンスや1on1、評価、教育等について一度振り返りをしてみることが期待されます。

                                   (HRM

組織運営チップス100、8のカテゴリー

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組織運営チップス100をスタートします。チップス(tips)とは、秘訣、ヒントという意味です。

 

ご紹介する100本の記事は、ながく理論に触れ、会計監査やコンサルティング税務会計業務を行うなかで、またいくつかの上場会社の監査役や取締役であったときの経験から学び現場で活用してきたマネジメントツールやフレームワークに関するものです。

 

自分で開発したものもありますし、また多くの方々がご存知の考え方を自分なりに解釈をした記事もあります。こうしたほうがよりうまく進むというノウハウに該当すると考えています。

 

組織運営チップス100で説明する記事のカテゴリーは、意思決定、ガバナンス、コミュニケーション、HRM(ヒューマンリソースマネジメント)、生産性向上、モニタリング、リーダーシップ、イノベーションの8に絞りました。

 

先ずランダムにこれらの項目のなかから、一つ一つのテーマをピックアップし、実務的な切り口で、開示をしていきます。当該記事が、この8のカテゴリーのどこに該当するのかを文章右下に載せておきますので、目安にしてください。

 

本当は100日で完了したいのですが、短いながら推敲して文章を書いていきたいので、始めは遅いテンポでアップしていきます。少ない時もあるかもしれませんが、徐々にスピードを上げていきます。

 

医療マネジメント系のブログ、「よい病院、よくない病院の見分け方」もアップしていますが、組織運営チップス100は一般企業をターゲットにしていきたいと思います。

 

もちろん、ここで記載する考え方は医療でも応用できるので、この内容は「よい病院」のほうで見たことがある、という記事もありますが、整理の仕方や書き方をどちらかというとマネジメントの教科書のようにしていきたいという思いがあります。

 

時間があるときにチェックして仕事の参考にしてみてください。よろしくお願いします。